
山の起床は、目覚ましが鳴っても無視して寝たふりをするのが常だけど、今日の行程はそれが許されないので3時にキッチリ起床した。OBさん方から無償提供していただいたアルファ米を食べて、まだ夜が明けきらないうちに出発。ずいぶん早く出たなあと思っていたが奥明神谷には早くも10人近くも先に登っている人がいた。 沢は雪で埋まっていて、周りを高くて大きな岩の壁に囲まれ、今まで見たことのない景色だった。雪がコチコチでアイゼンの歯は良く効き、しっかりしたバケツもあるものの、登るのに比例して傾斜がきつくなり段々緊張してきた。ああ・・・怖い〜と思っていたが、今年はさすがに口に出すことはできないので、やせ我慢して必死に登るが、傾斜はますます厳しくなるばかり。バケツは大きくてしっかりしているのでよっぽどのヘマでもしない限り落ちるはずはないと、分かってはいるものの、滑ったらどこまで落ちて行くのだろうと考えるとあそこが縮む思いがした。腰を下ろして休めるような傾斜は全くなく、ある所では、凍りついた岩の上を歩かなくてはならない難所も出てきて一向に気が抜けない。 結局休みなし2時間半ぶっとうしでやっと前穂頂上に着いた。しかし関君は、本格的なアイゼンを履くのも初めてなのに、何も言わず登ってしまった。たいしたものだ!本当は僕が関君をフォローしなくちゃならないのに、自分のことでせいっぱいで何もできなかった。

まだまだ行程が長いので、休憩もほどほどに吊尾根へむかう。前穂までは10人ほど中高年の人がいたが、ここからは僕たちだけ。吊尾根は見た感じかなり険しそうだが、豪快に奥穂高岳に突き上げている様子は登山意欲を掻き立ててくれるに十分だった。 尾根の最低部までのくだりは雪も余りついていないので、アイゼンをはずして、夏道・冬季ルートと交互に取りながら岩稜上をそんなに苦労なく下りられた。最低部でクライムダウンしなければならない難所にでて、それを無事下ったところから尾根の後半戦といった感じになり、先の登りルート上には雪がたくさん着いているのが見えたので再びアイゼンをつけた。 後半戦では、トレースにしたがって急斜面をトラバースするところが何箇所も出てきたが、雪山初心者の関君も大して怖がっている様子もなくついてくるし、稜線にしては風が弱く、おまけに天気がよく、雪庇も小さいのが所々にでている程度で、何とか奥穂までいけそうな気がしてきた。
今回のルートでの問題は、技術的なものよりむしろ体力的なものだった。で、奥穂に群れ集まっている人々や、ケルンが乱立する様子が見えてきたころ、歩いている様子を写真に撮るため関君に前へいってくれるよう頼むと、風が吹くたびに明らかに体がフラフラ揺れている。思わず笑ってしまったが、同時に帰りが大丈夫か少し心配になってきた。
11:00過ぎ、奥穂登頂。2人とも喜んでいる。登れて本当に良かった!これは2人が優秀だったおかげ、天気がよかったおかげで、自分はむしろ2人に後押しされて登れた。持ってきた大ぶりのウィンナーを3等分しかぶりついたり、美味い水を飲んで景色を楽しみながら、一休みしたのち、帰りがまた長いのでゆっくりする間もなく再び吊尾根へ。もう日が高いので雪はくしゃくしゃ。足が疲れ始めていたので慎重にトラバースをくりかえし、吊尾根最低部に到着。ここで、行きしなクライムダウンしたルートの他に、更に下方の斜面にも一つ別のトレースがついていたので、こちらにルートをとることにしたのだが、ここで失敗してしまった。ルートは、まもなく垂壁に近い斜面をトラバースしていたが、雪がボロボロなのでとてもやばい気がする。でも、その斜面の下のほうはかなりゆるくなっているし、雪も柔らかいし、もし落ちてもすぐ止まるだろう、それに引き返すのも何だしなあ、と、右足、そして左足、と両足を斜面上のバケツに乗せたとたん、ガクンと両方いっぺんに崩れ落ちてしまった。ワッ!と思った瞬間、左足が雪の下に隠れていた岩に引っかかって転落は免れた。言い訳無用に、軽率な判断だったが、またひょんな所で繰り返しそうで怖い。

気を取り直して緩そうな岩壁を、アイゼンをはずしてから稜線まで直登する。自分としては大した事はない岩登りだと思ったが、後から聞くと関君は少し怖かったらしい。登りつめると稜線上のルートも見つかり、疲れた体にこたえる登りを続けやっと前穂高岳に戻ってきた。思いのほか人が多く、頂上に整地してテントを張ろうとしている人までいた。 そしていよいよ恐怖の下降〜ロボットのようにギクシャクしながら僕は冷汗まみれになりながら下りていく〜みんな大丈夫かなあと思いきや・・・塩見さんは猛スピードで降りていくし、関君も全く平気で、気がつけばビビッているのは自分だけ。塩見さんにコツを教えてもらって真似しようと少し歩速を早めるとスッテンコロリン・ズザザザザ〜・・・と尻餅ついてしまう。何でだ〜と、少しへこみながらの下降となった。傾斜が緩くなってくると塩見さんが尻セードを始めたので自分もまねする。非常に爽快、あっという間に下山できた、が、アイゼンでヤッケのズボンに穴を開けてしまった関君は可愛そうに歩いていた。
往復12時間のハードな一日を終えてテントに戻ってくると、後発隊の澤と和田君がキムチ鍋を作りながら待っていた。彼らは雪訓をした後、前穂の取り付きまでいってきたらしい。 5人来てテントはかなり狭くなったが、それでもみんなで楽しく食事して、ゆっくり寝られた。

今日から天気が崩れてくるとかで、朝から稜線は白くて分厚い雲に覆われていた。それでも、粕の様な雨が降ったりやんだりしていた程度だったので、天候が悪くなってきたらすぐに下山するということで、天狗沢から天狗のコルまで登ることにした。メンバーも、昨日の奥穂組はかなりテンションが低かったとはいえ、五人全員参加という形になった。
天狗沢上部から稜線はガスっていて何も見えない、せいぜい30〜50m先までみえるていど。入山者も沢の下部で雪訓していた10数人以外は、僕たち五人だけだった。沢は昨日に比べるとずいぶん緩やかで、雪ももう少し柔らかければアイゼンがいらないくらいだし、トレースもしっかりしたのがずっとあって、登るだけという点ではそんなに大した事はなかったが、視界が悪い・天候が崩れかけている・まだ新しくて、しかもかなり大きそうな雪崩の跡があるなどで、不安材料もいくつかあった。特に雪崩はほとんど予備知識がないまま来てしまったので、斜面に大きな亀裂が入っているところに出くわすと、ただいたずらに不安になるばかりで、もっと予備知識を増やしとくべきだったと思うばかりだった。
もやの中から雷鳥の、グゥワァ〜、グォ〜ェ〜と言う声が時折聞こえるが、やっぱ何にも見えない。で、稜線が全く見えないまま、段々傾斜がきつくなってきたなあと思っていたら、あっけなく頂上に着いた。まあよくやったでしょう、と、何となく物足りないような雰囲気で、一休みしてから下山。和田君も全然平気なのに、またしても僕だけビビッてしまった・・・。雨も降らないまま何事もなくテント場までもどれた。
テントに戻ってくると、兵頭さんが、二時からスキー大会をやるぞと言って、ショートスキーを用意してくれていたので、澤が早速滑っていったが、結局雨で中止になってしまった。それならば、という事でトランプ大会になると、和田君が伝説を作った。
